美容CLINIC総研vol.26
所長 石田 毅
美容クリニック開業の二択!個人事業主と医療法人のメリットとデメリットとは?
美容クリニックを開業する上で、どのような形態があるのでしょうか?一般企業でも多くの会社員がフリーランスなどとして独立した場合に、どのような形態があり、それぞれのメリット・デメリットなどをあまり知らないのと同じように、大手クリニックなどの組織に属していたドクターも独立開業を決めて動き出すまで、クリニック開業の形態やそのメリットデメリットを知らないということも多々あるようです。
今回は、美容医療クリニックが開業する際の形態とその各形態にどのようなメリットデメリットがあるのかを分かりやすくお伝えしたいと思います。
1. 開業形態の選択肢
美容クリニックを開業する際、主に以下の2つの開業形態を選ぶことができます。
• 個人事業主
• 医療法人
主な特徴を整理すると以下のようになります。
少し補足説明を。
医療法人は、以下の要件を満たした上で、都道府県知事から開業の認可を受ける必要があります。かなりハードルの高い要件となります。
• 法人の設立要件: 理事3名以上、監事1名以上が必要。
• 医療施設の基準: 適切な設備と常勤の管理医師が配置されていること。
• 所在地の条件: 地域の医療ニーズに応じた施設であること。
• 経営基盤: 安定した資金と経営計画があること。
• 法令順守: 医療法など関連法規の遵守が求められる。
また「非営利組織」であることにより余剰金の分配は認められていません。「余剰金の分配が認められない」ということの意味は、医療法人などが運営する病院や診療所で生じた余剰金(利益)を、出資した人や経営者が自分の懐に入れることはできないということです。代わりに、そのお金は病院や診療所の運営を良くするために再投資される必要があります。例えば、設備を新しくしたり、スタッフの研修に使ったりします。医療機関(医療法人)はみんなの健康を守るために存在しているので、そこから得たお金を一部の人が私的に使うことができないという仕組みです。因みに「経営者への給与」は事業運営に必要な経費とみなされ、余剰金(利益)の分配には該当しません。
2. 各形態のメリット・デメリット
上記の二つの形態の特徴を踏まえた上で、それぞれのメリットとデメリットを見ていきます。
● 個人事業主のメリットとデメリット
<メリット>
• 開業が簡単
手続きがシンプルで、費用も抑えられます。税務署に開業届を提出すればすぐに営業を開始できます。
• 自由度が高い
経営方針や事業内容を自由に決定でき、柔軟に変更が可能です。
• 初期費用が少ない
法人登記の手間や費用が不要なため、初期費用を抑えてスモールスタートできます。
<デメリット>
• 累進課税による税負担の増加
個人事業主は累進課税制度で、所得が増えると税率が上がります。高額所得では最大45%(住民税を含めると55%)の税率が適用され、税負担が重くなる可能性があります。
• 経営リスクが個人に集中
すべての経営リスクや債務が経営者個人に帰属するため、万一の経営不振や負債は個人が全ての責任を負う必要があります。
• 信用力の低さ
法人に比べ、個人事業主は社会的信用力が低いため、金融機関からの融資や取引の際に不利になることがあります。
以下が上述した個人事業主のメリット・デメリットを表にしたものです。
● 医療法人のメリットとデメリット
<メリット>
• 税制上の優遇措置
医療法人にすると法人税率(23.2%)が適用されるため、個人事業主の累進課税と比べて大きな節税効果が期待できます。特に事業規模が大きくなると、節税効果が顕著です。
• 経営リスクの分散
法人としての運営となるため、経営リスクや債務が法人に帰属し、個人の財産が守られます。
• 社会的信用の向上
法人化することで社会的信用が高まり、金融機関からの融資や取引先とのビジネスがスムーズになります。
<デメリット>
• 設立・運営コストの増加
医療法人の設立には手続きが複雑で、初期費用や維持コストが高くなります。登記費用や弁護士・税理士のサポートが必要になることもあります。
• 法人管理の煩雑さ
法人税や社会保険の手続きなど、法人化に伴う税務・会計業務が増え、管理が煩雑になります。専門知識を持つ会計士や税理士のサポートが不可欠です。
• 設立要件が厳しい
医療法人を設立するには、複数の医師や従業員が必要な場合があり、一定の設立要件を満たす必要があります。また、地域によっては設立が制限されることもあります。
以下が上述した医療法人のメリット・デメリットを表にしたものです。
3. 開業形態の選び方
• 小規模でスタートするなら個人事業主
個人事業主として開業する最大のメリットは、手軽さと初期費用の低さです。まずは少額の資金でスタートし、事業が軌道に乗ってから法人化を検討するという戦略もあります。自由診療が中心の美容医療では、個人の裁量で経営を柔軟に進めることが可能で、初期段階では個人事業主が適しているケースも多いです。
• 事業拡大を見据えるなら医療法人
一方で、事業が拡大し収益が増えてくると、税制上の負担が大きくなるため、医療法人化を検討するタイミングが訪れます。従業員を増やし、クリニックの規模を拡大する場合、医療法人のメリットが際立ちます。節税効果や社会的信用の向上、従業員の福利厚生の充実が法人化の大きな魅力です。
4. まとめ
美容クリニックの開業形態は、個人事業主からスタートし、成長に応じて医療法人化するのが一般的です。それぞれの形態には特有のメリット・デメリットがあり、事業規模や経営方針に応じて最適な選択をすることが重要です。スモールスタートを目指すなら個人事業主、大規模展開を見据えるなら医療法人化を見据えた開業が理想的だと言えるでしょう。
CLINIC総研所長 石田のコメント
現在分院展開しているクリニックは、実際に開業からどれくらいのタイミングで医療法人化しているのかを調べてみた。多くのクリニックが開業から医療法人化したタイミングを公表していないが、店舗数が多い上位4つのクリニックの開業年と医療法人かのタイミングを調査した結果が以下の通りだ。(美容clinic総研調べ)
TCBは開業した翌年に、SBCは4年後にそれぞれ医療法人化。一方で、品川美容外科及び東京美容外科は早いタイミングで開業しながら医療法人化までの期間は共に約10年ほどかけている。
TCBは開業から医療法人化の期間が最も短く、医療法人化したタイミングから一挙に店舗数を増やしていることから、開業当時から事業の拡大を前提にしていたことが想定される。
医療法人化のタイミングからも、各クリニックの経営戦略の一端が垣間見られる。
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